J. romantico

柊千/柊ED後です
ついったでやってみた診断で出たお題がものっそ柊千で萌え転がって続きが読みたい！！　となったので、
もうアレだ書いてしまえばいいんじゃないかと思って（真顔）
診断結果コピペ
【柊千へのお題：指先からすり抜けていく／（わらえ、わらうんだ）／その手にみちびかれて】
↑ちょっ…すごいですよね！　中にひとがいて作ってくれてるんじゃないかと思った！！

ごく緩いものですが、回想というか柊ルート故の残酷表現を含みます
千尋視点


続きにたたみます

＊ 夜の声 ＊

頬を包んだ指が、いまにもすり抜けそうだった。
私はその上から更に包んで、どうか抜け落ちてしまわないようにと、
ひたすら目を開けていたのだったと思う。


『どうか、泣かないで』


それがあのひとが私にした、さいしょの願いだった。
流れる血に負けないように、もっともっと鮮明に、
本当はもう少しだけ大きな声で伝えたかったのだろう、
それはあのひとのさいごの願いでもあった。


聞こえたの　ちゃんと
それなのに頑なに泣いて、
それを聞いてあげられなかった私と


『いかないで』


私がそれまでにしたたくさんの命令の中で、
さいごのひとつだけ守らなかったあのひととは、
すごく似た者同士だったんだと、やっといま気がついた。


それだけでも、なにも見つけられないよりは良かった——
いま、少しずつだけれど、そう思える。


「柊」


厳密にはこのひとは、あのひとではないのだけれど、
私が探し当てたこの顔は、ちゃんとあのひとと同じ顔をして
同じ声をして　同じような言葉をささやく。


だいたいは甘く、蕩けてしまいそうな言葉を。
ときどき悪戯で、ぞくりとするほど意地悪な言葉を。


枕辺に身を起こして、
寝入る柊の頬に指を滑らせてみた。
柔らかいのは髪もだけれど、肌だってそう。
綺麗なのは寝顔もそう。


あのひとが教えてくれなかったことを、
このひとが教えてくれる。
あのひとがくれなかったものは、
すべてこのひとが私にくれる。


「ねぇ柊」


このひとが知らないことは、
かなしいことは、


あのひとが全部全部もっていってくれたの


まわるまわる
きっとこれを輪廻という


私の寝室で一緒に眠るようになってから、
初めは少し物音がするだけでぴくと目を覚ましていた柊は、
最近漸くよく眠るようになった。
けれど眼帯に触れるとすぐ起きる。
いまだって。


「……我が君」


寝ているとばかり思っていた手のひらは、
私の手首をきちと掴んで、
いけません、という顔をした。


「そんなにこわい顔しないで」
「これだけは、如何に我が君のご希望とあれど」
「……違うの」


眼帯の下がどうなっているのかなんて、
寝てる間に覗いてしまおうなんて、
そんなじゃない。


「起きて欲しかっただけなの」


ぱちぱちと、大きく瞬く青い方の瞳。
どうして、
そんなに驚くことじゃないでしょう？


柊は、私の手首を解放して、
それから頬をすっぽりと、両の素手で包んだ
驚いたように見えていた顔が、
少しずつ綻んで、やがてとても幸せそうに笑むのを見ていた。


そして、小さくキスをする。


あのひとも、このひとも、同じ秘密がひとつ。
眠る時にもはずさない眼帯の下に、
私にも決して明かせない秘密をだいじに持っている柊が好き。
こんなこまっしゃくれた小さな王に、
そう簡単に弱みを見られては困ると、そう思うんでしょう？


知ってる
好き
大好き


「明朝もお早い。どうか、おやすみ下さい」
「いや、まだ……！」
「弱りましたね。ならばあなたが眠りに落ちるまで、この腕であなたを抱きましょう。
　この世で最も幸福な僕が、子守歌を歌って差し上げます故」
「……寝るまで？」


柊は腕を広げて、穏やかに頷いた。


「ですから、どうか悲しい顔などなさらないで」
「——はい」


どうやら、私はそんな顔をしていたらしい。


ごめんなさい
あなたがそう願うなら、
いい子にするわ　いい子で眠る
だから、どこにも行かないで


柊の隣に潜り込んで、夜着の裾をぎゅっと握った。
掻き寄せられて、胸がぴったりとくっつくと、
暖かくて、柊の匂いがして、すぐに瞼が重くなる気がした。


微睡みはじめた私のこころに、子守唄は手のひらが、
頭の上でさらさらと、とくとくと紡いでいく。

＊ 夜の声・完 ＊

[13回]